事業承継の進め方㉚ 事業計画の策定4
- Homare Yamamoto
- 2021年5月12日
- 読了時間: 4分
こんにちは。所長の山本誉です。
今回、このブログでは、事業承継、経営改善のための、「事業計画の具体的策定方法」、
とくに経営においては重要な「資金計画」の策定について説明していきたいと思います。
(5) 資金計画の策定
3つのシナリオに基づいて損益計画を検討し、損益計画が策定できたら、次に資金計画を策定します。資金計画の策定は、図表6のように作成します。

図表6で注目すべきは、金融機関の支払利息をいったん「営業CF」で足し戻して
FCFを算定し、そこから金融機関の元本および支払利息の返済原資を再検討するように
している点です。
その理由は、資金計画の最も重要な利害関係者が金融機関であることによります。
金融機関にとっては、借入金の元本および利息から、総額としてどれだけ回収できるのか
という「回収総額」が重要だからです。
さて、図表6の資金計画(CF計画)は、目標FCFを念頭におきながら、
計画年ごとに策定します。
まず、計画1年目ですが、図表6の「営業CF」の項目に、
前出図表3の損益計画の該当数字を当てはめます。
次に、図表6の「投資CF」の項目に、前出図表5「設備投資計画」の設備投資金額
および資産売却金額を当てはめます。
これにより、図表6の「目標FCF」の項目が算定されます。
このようにして、
計画2年目以降も、「営業CF」、「投資CF」および「目標FCF」を算定します。
計画5年目まで「目標FCF」を算定したら、
図表6の「財務CF」の項目である金融機関への借入金および利息返済額(返済総額)を
検討します。また、新規借入を金融機関に要請したい場合にはその金額も検討します。
ただし、金融機関への借入金および利息返済額は、手元に残す現預金等の金額と
あわせて検討しなければなりません。
それは、「最低手元資金」を留保する必要があるからです。
そこで、図表6には、「財務CF」加減後の「手元資金累計」および
「最低手元資金・充足率」の項目を設けて、金融機関への返済額と手元資金留保額の
「資金バランス」が検討することができるようにしています。
本設例のA社の場合、直前期の手元資金は2,160千円であり、
最低手元資金のわずか2.2%しか充足できていません。
こうした状況下では、フリー・キャッシュ・フローの使途として、
まずは最低手元資金の充足、つまり、手元資金へ優先的に充当すべきです。
最低手元資金とは、企業の倒産防止用資金だからです。
しかし、借入金の債権者である金融機関は、債権の早期回収を望む傾向があるため、
手元資金の充足よりも、借入金および利息の返済を優先するよう要求してくることも
あります。
担保物件がある場合には、借入金等の返済額が少なければ、
担保物件の売却による債務弁済を求めてくる場合もあります。
そのため、実務上は借入金等の返済額を巡り、金融機関と事業計画策定者側との間で、
度重なる調整が必要となることも少なくありません。
そこで、事業計画策定者のスタンスとしては、最低手元資金の充足を優先させつつ、
営業CFが充分に出るようになるまで、金融機関の借入金返済額を低く抑えるような
資金計画を策定し、粘り強く金融機関に要請し理解を求めるべきなのです。
本例では、図表7資金計画(図表6の一部抜粋)のように、
計画当初は金融機関の元本返済額を少なくして最低手元資金の充足を図りつつ、
経営改善の効果が現れて営業CFが充分に生み出せるようになっていく、
計画1年目から計画5年目に向かうにしたがい、金融機関の元本返済額を多くしています。

計画早期の段階(計画2年目から3年目)で最低手元資金を充足するように
計画を策定しても、最低手元資金の超過分をすべて金融機関の借入金等返済に回すか否か
については慎重に検討しなければなりません。
事業計画の借入金等返済額につき金融機関といったん合意形成がされると、
充分な営業CFおよびFCFが出ていない場合でも、借入金等返済額のみは
「合意事項」として金融機関から返済を要求されることが少なからずあるからです。
その点を考慮すると、
策定した計画の営業CFおよびFCFの実績が当初予定を下回った場合でも、
金融機関への借入金等返済額はカバーできるように借入金等返済額のハードルを
下げておき、下げた部分を「資金バッファ」として最低手元資金をさらに厚くするような
計画にしておくことも検討すべきだと思います。
なお、前掲図表6の資金計画には、貸借対照表関連項目である「要償還債務残高」、
「CF倍率(債務償還年数)」、および「純資産額(債務超過状況)」もあわせて表記し、「重要指標」の状況がひと目でわかるようになっています。
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